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東京地方裁判所 昭和29年(モ)2575号 判決

債権者 磯山公樹

債務者 株式会社川波事務器製作所 外二名

一、主  文

当裁判所が、昭和二十九年(ヨ)第八二一号実用新案模造品仮処分申請事件について、同年二月十九日した仮処分決定のうち、別紙第二(ろ)号図面表示の物件に関する部分は取り消し、その余の部分は、認可する。

債権者の別紙第二(ろ)号図面表示の物件に関する仮処分の申請は、却下する。

訴訟費用は二分し、その一を債権者の負担とし、その余を債務者等の負担とする。

この判決は、第一項のうちさきにした決定を取り消す部分に限り、仮に執行することができる。

二、事  実

第一当事者の主張

(一)  債権者の主張

(申請の趣旨)

債権者訴訟代理人は、主文第一項掲記の仮処分決定は認可するとの判決を求め、その理由として、次のとおり、陳述した。

(理由)

一 債権者は、「三枚掛カード帳票」について、昭和二十六年九月十四日実用新案の登録を出願し、昭和二十七年十月二十一日公告、次いで、昭和二十八年一月二十日査定を受け、同月三十日第三九九、六七四号をもつて、「磯山式カツト帳票」の名称で登録された実用新案権(以下単に本件実用新案権という。)を有し、この実用新案権に基いて、右カツト帳票の製造販売を業とするものである。

二 右実用新案権の登録請求の範囲は、別紙第一図面に表示するように、「上部にカードフツクAA'には約三分の二の切頭を設けて、それぞれ突出部甲、乙を作り、三枚目はそのままとして、それ等の両面に索引記事を印刷して三枚掛としたカード帳票の構造であつて、これにより、費用の削減、労力の節約並びに事務の簡素化と迅速化を図ることを目的とするものであるが、その構造のうち、上部は公知公用にかかるものであるから右実用新案権の重要部分は、カードの下部に切頭を設けて見出し突出部を作り、それに索引を附する点に存するのである。

三 ところが、債務者川波事務器製作所は、かつて、債権者とともにこの種事業を経営したことがあり、しかも、当時の従業員をそのまま使用している関係上、前記の事情を知りながら、別紙第二図面に示すような、本件実用新案と同一または類似の帳票を製作、販売している。すなわち

(1)  別紙第二(い)号図面に表示するように、カードの上縁に少しずつずらせて重り合わないように取り付けたカードフツク各二個を有する三枚のカードの下部の一枚目には約三分の一、二枚目には約三分の二の切頭を、それぞれ設けて突出部を作り、三枚目はそのままとして、その等の両面に索引記事を印刷して三枚掛としたカード帳票(以下単に(い)の帳票という。)

この帳票は債権者の実用新案と全く同一の構造である。

(2)  別紙第二(ろ)号図面に表示するように、カードの上端に一線に設けられた切取孔(反転孔)を有する三枚のカードを重ねた下部の一枚目には約三分の一、二枚目には約三分の二の切頭を設けて、それぞれ突出部を作り、三枚目はそのままとして、それ等の両面に索引記事を印刷して三枚掛としたカード帳票(以下単に(ろ)の帳票という。)

この帳票は、上部の構造が本件実用新案とやや異るものがあるが、この上部構造は、従前から一般に使用されていたものであり、問題はないのみならず、債権者の実用新案権の主要部分は、カードの下部に切頭を設けて見出し突出部を作ることにあるのであるから、右の帳票は、本件の実用新案と同一または類似のものである。

(3)  別紙第二(は)号図面に表示するように、カードの上縁に少しずつずらせて重り合わないように取り付けたカードフツク各二個を有する三枚のカードの下部の一枚目は左の端、二枚目は中央、三枚目は右の端に、それぞれ約三分の一の切頭を設けて突出部を作り、それ等の両面に索引記事を印刷した三枚掛カード帳票(以下単に(は)の帳票という。)

この帳票は、カード下部の見出部の構造が本件実用新案権とやや異るが、これを三枚組合せとする点において、本件実用新案と全く同一のものである。

四 債務者新寿堂及び同伸正社は、以上の事実を知りながら、債務者川波事務器製作所の注文によつて、右(い)、(ろ)及び(は)の各帳票を印刷、加工しているものである。

五 ここにおいて債権者は、債務者川波事務器製作所に対し、しばしば警告を発すとともに、右(い)、(ろ)及び(は)の各帳票の製造、販売を中止するよう要求したが、同債務者は、これに応じないばかりか、最近に至つては、ますます大々的に大会社に売り込みを始めたために、債権者の前示「磯山式カツト帳票」の売行きは、とみに低下しつつある現状である。

よつて、債権者は、本件実用新案権に基き、債務者等に対する侵害行為の禁止、損害賠償請求の本案訴訟の提起を準備するとともに、債務者等の侵害行為により蒙る回復することのできない損害を避けるため、東京地方裁判所に対し、本件仮処分命令を申請し(同庁昭和二十九年(ヨ)第八二一号)、同年二月十九日右(い)、(ろ)及び(は)の各帳票の製造、販売、拡布を禁ずる等の仮処分決定を得たが右決定は相当であり、いま、なお、維持する必要があるから、その認可を求める。

なお、債務者等の主張事実中、「一覧式カード」が、その主張するとおり、登録されたことは認めるが、その余の事実は争う。(ろ)の帳票は、右登録された実用新案とは全く別個のものであり、しかも、債権者の本件実用新案と同一または類似のものである。すなわち、債務者等の実施していると主張する右「一覧式カード」の登録請求の範囲は債務者等の主張するとおりであるのに反し(ろ)の帳票は、

(1)  数枚のカードの切取孔が揃つている。

(2)  バインダーは数組組合せて始めて型となる。

点において、これと相違している。

仮に、(ろ)の帳票が、債務者等の主張する前示実用新案にかかるものであるとしても、二枚掛あるいは四枚掛に関するものならともかくいやしくも三枚掛帳票に関する限り、債権者の本件実用新案権の権利範囲に属することは、既に述べたとおりであるから、(ろ)の帳票の製作、販売は、本件実用新案権にてい触し、かつ、その権利使用となるものであるから、債権者の実施許諾のない本件においては、債務者等は前示実用新案権を実施することはできない。蓋し、かような場合には、実用新案法第六条第三項の規定が類推適用さるべきであるからである。

また、仮に、債務者等が(い)及び(は)の帳票を昭和二十八年七、八月以降製作していないとしても、右帳票の主たる用途が株券台帳であつて、増資または新株の募集等の事由による断続的注文に応じてその都度製作されるべきものであるから、過去において、これを製作、販売し、一部会社において使用している事実が存する以上、将来再びこれを製作、販売する虞のあることは明白であるから、これについても仮処分の必要性がないとすることはできない。

(二)  債務者等の主張

(申立)

債務者等訴訟代理人は主文第一項掲記の仮処分決定は取り消す、債権者の本件仮処分申請は却下するとの判決を求め、その理由として、次のとおり陳述した。

(理由)

債権者の主張事実中、債権者が「三枚掛カツト帳票」について実用新案権を有すること、債務者等が(い)、(ろ)及び(は)の帳票を製造販売し、または、製造、販売していたこと及び債権者から債務者川波事務器製作所にあてて、右帳票の製造、販売中止の要求のあつたことは、いずれも、認めるが、右(ろ)の帳票が、債権者の実用新案権とてい触することは否認する。債務者等は右(い)及び(は)の帳票を、昭和二十八年七、八月以降は製作、販売していない。また、(ろ)の帳票は、債権者の「磯山式カツト帳票」が多くの欠陥をもつているところから、債務者川波事務器製作所の常務取締役である山下孝行が考案した合理的で、かつ、便利な「一覧式カード」であつて、両者は、形状、構造、効果の点において、類似のものとはいい得ないので、右山下は、これについて、昭和二十七年十一月十一日実用新案の登録を出願し、昭和二十八年第一二、七〇七号で公告、次いで昭和二十九年三月二十日登録第四一一、七四三号をもつて、山下孝行名義で登録されたものであるが、その登録請求の範囲は、「上端に設けた切取孔を縦方向に少しずつずらし下端に設けた切欠部を残した見出部が横方向に並列する如く設けた数個のカードを一組にして取付けた断面型バインダーを一覧式カード容器に収容してなる一覧式カードの構造」であるから、債権者の実用新案権の請求範囲に属しない全く別個のものである。もつとも、右(ろ)の帳票の切取孔は、多くの場合実際上ほとんど揃つているが、これは、カードの反転を容易ならしめるために少しずつずらせる切取孔の間隔が、僅かカード一枚の厚さをもつて足ることからくる製作上の誤差に基くものであるから、これをもつて、右山下の実用新案と別物であるとすることは、当らない。なお、

(一)  債権者の本件実用新案権は、次の理由によつて無効である。すなわち

(1)  債権者が川波事務器株式会社(債務者株式会社川波事務器製作所設立前の会社)に勤務していた昭和二十五年十月頃、右会社は、昭和電工株式会社から「三枚掛カード帳票」の注文を受けたので、当時の社長高橋ハツ、専務取締役川波政治、常務取締役山下孝行及び監査役債権者の四名が、相寄り、相工夫して完成したものが本件実用新案と同一のものであるから、本件実用新案をもつて債権者独自の考案とすることはできない。

(2)  右会社は、前示考案に基いて、債務者新寿堂、同伸正社に依頼して完成した三枚掛帳票のカード三万六千枚、カードフツク七万三千個、カード整理器二十台を、債権者の本件登録出願日である昭和二十六年九月十四日以前の同年三月頃、昭和電工株式会社に納入し、同社において、既に、株券台帳として公然使用していたものである。

よつて、債務者川波事務器製作所は、昭和二十九年二月十二日債権者を相手取つて特許庁長官に対し、本件実用新案権が債権者の独自、かつ、新規な考案に属しないものとして、これが無効の審判を請求した次第である。

(二)  右(一)の主張が理由ないとしても、川波事務器株式会社川波政治、債務者新寿堂及び同伸正社が本件実用新案権の登録出願以前において、既に「三枚掛帳票」を製作、販売していたことは、前に述べたとおりであるから、右の者等は、実用新案法第七条の規定により実施権を有する者に該当し、債務者川波事務器製作所は、右川波事務器株式会社及び川波政治からこれが実施権を譲り受けたものであり、仮にしからずとしても、右実施権者の製作、販売にかかる製品を買い取り、販売しているものであるから、これを禁止されるいわれはない。

以上のとおりであるから、債権者の本件仮処分の申請は、失当として、却下されるべきものである。

(三) 以上の主張がすべて理由ないものとしても、債務者川波事務器製作所は、毎月百万円に相当する前記(3) の「一覧式カード」及びこれに附随して、その用器として約四百五十万円に達する鋼板製事務器を販売し、約百万円以上の利益をあげていたものであるが、本件仮処分の執行によつて、これ等の販売が不可能となり、従つて、毎月約百万円の得べかりし利益を失い、かつ、五十人の従業員が職を失う結果となるばかりでなく、現に、日産火災海上保険株式会社外四社から約三百万円に相当する右カードの注文を受けているほか、更に、明治商事株式会社外五社から合計約三百万円に達するカードの受注を予定されていた矢先であつたので、莫大な得べかりし利益を失い、かつ、一流大会社に対する信用を著しく失墜し、その損害は、図り知れないものである。

また、債務者新寿堂、同伸正社は、それぞれ毎月五十万円以上の「一覧式カード」を製作、納入しているので、右仮処分決定の執行によつて生ずる得べかりし利益の喪失、従業員の失職等を考慮すると、その損害は莫大な額に達する。

これに反して、債権者は、単独で発注、納入しているものであるが、「磯山式カツト帳票」は評判が悪いため売行が芳しくなく僅かに、日本航空株式会社外数社に納入しているにすぎない現況である。

以上、本件仮処分によつて蒙る債権者と債務者等の損害利益等を比較考慮すると、債務者等の蒙る損害は莫大であるのに引き換え、債権者の損害は、あるとしても、極めて僅少で、かつ、金銭によつて償い得るものであり、右の事情は、いわゆる、特別事情に該当するから、これを理由に、本件仮処分の取消しを求める次第である。

第二疏明

<省略>

三、理  由

一  債権者の実用新案権とその権利範囲について

債権者が、「三枚掛カード帳票」について、昭和二十八年一月三十日実用新案第三九九、六七四号「磯山式カツト帳票」として登録された実用新案権を有することは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、債権者本人の供述によつて成立を認め得る甲第三号証、証人山下孝行の証言によつて成立を認め得る乙第二号証及び債権者本人の供述を綜合すると、右実用新案権の登録請求の範囲は、別紙第一図面に表示するように、「三枚のカードの上端にそれぞれ取り付けたカードフツクA・A'型クリツプの両端に通し、その下部の一枚目には約三分の一、二枚目には約三分の二の切頭を設けて、それぞれ突出部甲、乙を形成し、三枚目はそのままとして、それ等の両面に索引記事を印刷して三枚掛としたカード帳票の構造」にあることが、一応、首肯できる。

二  債権者の実用新案権は無効であるかどうかについて。

(1)  債務者等は、本件実用新案権は、債権者その他の共同考案にかかるものであり、債権者の独自の考案ということはできないと主張するが、乙第一号証の記載及び、証人山下孝行の供述中、右主張に添う部分は、債権者本人の供述に照して、たやすく措信できず、他に、債務者等の右主張を肯認するに足る疏明はない。

(2)  更に、債務者等は、右実用新案権は、公知公用のものであり、新規な考案に属しないから無効であると主張するが、適法に登録された実用新案権は、その存続期間が終了するかあるいは、無効の審判若くは無効の判決が確定するまでは、その効力を有するものと解するを相当とするから、これらの点について主張及び疏明のない本件においては、債務者等の右主張は採用することはできない。

三  各帳票が債権者の実用新案権の登録請求の範囲に属するかどうかについて

債務者等が製造販売していたことは当事者間に争いがない(い)及び(は)の各帳票が、債権者の本件実用新案と同一または類似のものであることは、債務者等の認めて争わないところである。

(ろ)の帳票(債務者等が、製造販売していることは、当事者間に争いがない。)が、右新案権の登録請求の範囲に属するかどうかについて考えるに、山下孝行が、「一覧式カード」について、昭和二十七年十一月一日実用新案の登録を出願し、昭和二十九年三月三十日登録第四一一、七四三号をもつて右同人名義で登録を受けたこと及びその登録請求の範囲が債務者等の主張するとおりであることは、いずれも、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、第二号証、第六号証の一、二、乙第六、第七号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証、債権者本人の供述により成立を認め得る甲第三号証、証人山下孝行の証言によつて成立を認め得る乙第一、第二号証、第四第五号証及び債権者本人の供述(後記措信しない部分を除く。)並びに証人山下孝行の証言を綜合すると、

(1)  (ろ)の帳票及び債権者の実用新案にかかる帳票は、いずれも、従来の「一覧式カード」の改良を目的とした基本的着想は同一で、各かどに丸味を帯びた三枚のカードの下部に第一葉には約三分の一、第二葉には約三分の二の切頭を、それぞれ設けて突出部を作り第三葉をそのままとし、その両面に索引記事を印刷して見出しとした「一覧式カード」であつて、これをカード整理器に収容して、自動車登録原簿、各種会員名簿、株券台帳等に用いるが、索引が容易で、たやすく反転披見ができ、これによつて費用労力の節減事務の簡易迅速化ができる等の共通の利点があること、

(2)  両者は、数組ないし数十組のカードとして、同一のカード整理器に収容することができ、これに収容した場合の外観は殆ど同様であること、

(3)  前者を通常デツクス式といい、カードの上端に、横に一列の反転孔(切取孔)を設け、これを縦方向に少しずつずらせ、断面に設けた型バインダーを、細線で取り付けて四者一体としたものであるのに反し、後者は、通常ヒンジ式といい、カードの上端に取り付けたカードフツクを型クリツプの両端に通したもので、両者は、形状、構造を異にすること、

(4)  効用の点においても、前者が見出しは整然とし、製造が簡単で安価であるが、反転する場合にはやや反ぱつしやすく、一枚一枚のカードの取り換えができないのに反し、後者は、反転が容易で反ぱつがない。カードフツクをはずしてカード一枚一枚の取換えができるが、他面、カードが破損し易く、見出しもやや不整一で製造工程も複雑従つて、価格も高価であること等の差異があること、

(5)  山下孝行は、前者を「一覧式カード」として前示実用新案登録を得たこと、

を、一応、推認できる。

しかして、両者間の異同が上に掲げたとおりであるとすると、債務者等の製作、販売する(ろ)の帳票は、債権者の本件実用新案と、形状構造、効用等の点において、異るから、右(ろ)の帳票は、その全体の綜合考察において、債権者の本件実用新案権の権利範囲に属しないものと認めるのが相当である。これにてい触する甲第三号証の記載及び債権者本人の「(ろ)の帳票は、本件実用新案の完全な類似品である」旨の供述は、前顕各疏明資料に照して、たやすく、措信できず他に、債権者が主張するように、(ろ)の帳票が債権者の実用新案にかかるものと同一または類似のものであることを認めるに足る明確な疏明はない。

債権者は、この点に関し、債権者の本件実用新案権の重要部分は三枚を一組としたカードの下部に設けた見出突出部に索引を付する点に存するのであつて、これと(ろ)の帳票の下部構造を対照すると、同一又は類似のものに属すること明らかであると主張するが、右主張に添うような甲第三号証の記載及び債権者本人の供述部分は、前顕各疏明資料に照して措信し難く、他に、債権者の右主張を肯認するに足る疏明はない。却つて、成立に争いのない甲第二号証及び証人山下孝行の証言によつて成立を認め得る乙第二号証並びに弁論の全趣旨を綜合すると、本件実用新案の上部構造と下部構造はそれぞれ公知公用のものであつて、これ等の結合の点に新規性が認められて登録されたものであることが推認されるばかりでなく、前に説示した効用(その大部分は、上部の構造如何によつて左右されるものであるが、索引の容易という下部構造の直接の効果も、結局は、上部構造如何に負うものであることが、右の各疏明によつて推認される。)の点をも考慮すると、本件実用新案の新規性は、債権者の主張する下部構造のみにあるものとは、到底考えられないから、債権者の右主張は採用し得ない。

以上のとおりであるから、債権者は、その有する本件実用新案権に基いて債務者等に対し、(ろ)の帳票の製作、販売拡布の禁止等を請求し得る筋合いでないことは明らかであるからこれに関する債権者の本件仮処分申請は、進んで他の点について判断するまでもなく、失当として却下するほかはない。

四  (い)及び(は)の帳票に関する実施権等について

(い)及び(は)の帳票について、債務者等は、川波事務器株式会社、川波政治及び、債務者新寿堂並びに、同伸正社は、本件実用新案権について実施権を有するものであるが、債務者川波事務器製作所は、右川波事務器株式会社及び川波政治から右の実施権を譲り受けたものである、仮に、そうでないとしても、右実施権者の製作、販売にかかる製品を買い取り販売することが禁止されるいわれがないと主張するが、債務者等の全疏明をもつてしても、未だ、右の事実を肯認することができないから、債務者等の右主張は採用できない。もつとも、乙第一号証、第四、第五号証、第八号証及び、証人山下孝行の供述を綜合すると、債務者新寿堂及び同伸正社は、昭和二十五年十月頃から別紙第一図面表示の帳票を製作した事実が、一応、推認できないわけではないが、右は、川波事務器株式会社の依頼によつて同社のために製作したことは、前示各疏明資料によつて明かであるから、右の事実をもつて債務者新寿堂、同伸正社に、債務者等の主張する実施権があるとすることはできない。

五  (い)及び(は)の帳票に関する仮処分の必要性について

進んで(い)及び(は)の帳票に関する仮処分の必要性について考えるに、成立に争いのない甲第六号証の二、乙第十三第十四号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証、債権者本人の供述によつて成立を認め得る甲第四号証、証人山下孝行の供述によつて成立を認め得る乙第一号証、第四、第五号証、債権者本人及び証人山下孝行の供述並びに本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると、債務者等は、帳票等の製作、販売を業とするものであること、(い)及び(は)の帳票は主として株券台帳に用いられるものであり、増資または新株の発行等の場合における断続的注文により、その都度製作納入されるものであること、債務者等は昭和二十八年八月頃まで右各帳票を製作、販売していたこと(この点については当事者間に争いがない。)従つて、将来においても右の各帳票の需要が予想されること及び昭和二十九年二月二十三日の本件仮処分の執行に当り右各帳票のカード合計二百八十枚が債務者等方に存在し、執行吏の保管に委ねられたことを、一応認め得べく、これ等の事実によれば本件仮処分の必要性を肯認するに十分であり乙第一号証の記載及び、証人山下孝行の「(い)及び(は)の帳票については、将来製作、販売するようなことはない」旨の供述は直ちに、右仮処分の必要性を否定し去り得るものでないことは多言を要しないところであり、他にこれを覆すに足る明確な疏明はない。

よつて、債権者の本件仮処分申請を認容してした主文第一項掲記の仮処分決定のうち、(ろ)の帳票に関する部分は取り消し、その余の部分は認可することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二条、第八十九条、仮執行の宣言について、同法第百九十六条を適用し、主文のとおり、判決する。

(裁判官 三宅正雄 福森浩 長久保武)

別紙第一、別紙第二 図<省略>

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